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●抒情歌でてこい [day by day]

人生劇場・飛車角と吉良常196802.jpg


先日用事があって電車で郊外へ向かっていたときのこと。

降りたことのない駅に電車が止まり、ドアが開き、降りる人も乗る人もないまま、数分でドアが閉まり……。とその直前に、発車を知らせるチャイムが。

その聞き覚えのあるメロディーに思わず耳をそばだてた。
唱歌の「牧場の朝」。

電車が動き出すと、わたしは脳内カラオケで「牧場の朝」をうたい始めた。
♪ただいちめんに たちこめた まきばのあさの きりのうみ
 ぽぷらなみいきいに うっすらと…………

あれっ。そのあとが出てこない。メロディーはわかっているのに歌詞が出てこない。いくら考えても何一つ出てこないのだ。

それから3つめの目的の駅で降りた。
目的の場所までは徒歩で15分程度。その間、ひたすら好きな唱歌をうたいまくった。
もちろん人通りがあるので、脳内カラオケでだが。

♪われは海の子 白波の ………… 松原に 煙たなびく とまやこそ わがなつかしき 住処なれ

白波のあとが出てこない。とりあえず飛ばして、「住処なれ」と1番を歌い終えてダ・カーポ。しかし2度目も、「白波の」まででフリーズ。これはおかしい、へんだ。

♪狭霧消ゆる湊江の 舟に白き朝の霜 ただ水鳥の声はして いまださめぬ …………

なんだっけ、最後のフレーズ。だめだ出てこない。
それからさらに何曲かうたってみたが、完璧にうたえた歌はたったの1曲だけだった。
老化とはいえ、たいへんなことになってしまった。

もちろん用事をすませて、家へ帰り、抜け落ちた歌詞を調べてみた。
「牧場の朝」の続きは 
♪ポプラ並木の(「に」ではなかった)うっすりと(「うっすら」ではなかった) 黒い底から勇ましく 鐘が鳴る鳴る カンカンと

「我は海の子」の欠落した歌詞は「さわぐ磯辺の」だった。

そして「冬景色」一番のさいごは「岸の家」。それだけではなく、「舟に白き」ではなく「舟に白し」だったし、「いまださめぬ」ではなく「さめず」だった。嗚呼。

どんなに親しんだものでも使わなくなれば消えてしまうということだろう。唱歌もたまには聴いたり歌ったりしなければ忘れてしまうということだ。

高倉健さんの訃報を聞いたのはその翌日だった。

その日行われていた日米野球もサッカー国際試合もすっとんでしまった。

それから数日間、テレビではほとんどのチャンネルでエピソードと独自の映像で健さんを偲んでいた。
同じ映像、同じナレーションを何度もリピートしている。それでも飽きもせず画面に見入ってしまう。健さんが動き、健さんが喋ればなんでもいいのだ。何度でもいいのだ。
しばらく前から流れていた健さんのCMも相変わらずやっている。
そのたびに、手を休めて画面をみつめてしまう。

80歳を超える齢であれば、もはや大往生という言葉もあながち間違いではないのだろうが、健さんに関しては、ビートたけしが言っていたように「死ぬことが信じられない」という思い。
不死身ではあるまいし、いつまで生きれば納得できるのかといわれると返事に困るが、とにかく高倉健の死は信じられないのだ。死ぬはずがないのだ。勝手だけど。

追悼とか偲んでということではなく、これからしばらく健さんの映画を観ようと思う。いまでも時々渥美清を観るように。
「網走番外地」、「残侠伝」、「侠客伝」、「飢餓海峡」はもちろん、好きな「駅 ステーション」、「居酒屋兆治」、「ホタル」……、まだ見ていない小百合さんとの「動乱」とか「海へ」とか「四十七人の刺客」とか。

そう考えるとなんだか楽しみになってくる。さすがだな、死んでもなおわれわれを楽しませてくれるのだから。

さいごに、健さんにかかわる歌を何か。
「唐獅子牡丹」や「網走番外地」、「男の裏町」などのもち歌もいいけど、健さんが好きだった歌がいいな。

といってもプライベートをあまりあからさまにしない健さんなので愛唱歌、愛聴歌についてはよくわからない。
よくいわれるのが、カントリーでも歌われている「ミスター・ボージャングルズ」
いい歌だよね。歌詞がちょっと映画「ショーシャンクの空に」を連想させるような。
なんでも、高倉健のドキュメンタリーで健さんの好きな歌ということで、何かのシーンのバックに流れていたとか。

また、健さんに関するある本に、中国へ行ったときに「夜霧のブルース」に出てくる四馬路(すまろ)へ行ってみたい、というようなことが書いてあった。
ということは、かなり「夜霧のブルース」が好きで口ずさんでいたであろうことは想像できる。この歌は健さん血気盛んな16歳のとき、ディック・ミネによって歌われた。
ディック・ミネは戦前戦後にかけてその「男くささ」で日本男児を魅了した歌手だった。もしかすると健さんもファンだったのかもしれない。

ほかでは、いま流れているCMのBGMにつかわれている井上陽水の「少年時代」も健さんの好きな歌だとか。

いずれにせよ、きっと、たくさんの映画を観ていたのと同じようにたくさんの歌を聴いていたのだろう。

ただ、わたしがふと知りたいなと思ったのは、健さんが幼いころに口ずさんでいたであろう童謡や唱歌、つまり抒情歌。
人並みにマザコンであった健さんのことだから、きっと好きなお母さんからいろいろ歌を教えてもらっていたのではないでしょうか。

また、終戦直後、旧制から新制に切り替わった高校時代、戦前とはちがって遠慮することなく音楽の時間に内外の溢れんばかりの抒情歌を習い、かつ歌ったのではないでしょうか。

では健さんがどんな抒情歌を好み、口ずさんでいたのか、それを教えてくれる本や雑誌を目にしたことがないので、特定することはむずかしい。

ただひとつ、もしかしたら、と思える映画のワンシーンを思い出した。

「ホタル」という特攻隊で生き残った男が空に散った親友の妻と一緒になるという話で、そのなかで、健さんがその親友が好きだったという歌をハーモニカで吹くシーンがあった。
それがスコットランド民謡の「故郷の空」。

どうやら吹き替えではなく、健さん本人が吹いていたようだ。

ある本に、ハーモニカを吹くシーンにあたってプロのレッスンを受けるように監督かプロデューサーから健さんに話があったようだが、健さんは「この主人公はきっと習ったのではなく独学で習得したのでしょうから」と言ってひとりで練習したというようなことが書いてあった。

ということは、おそらく選曲は戦前からある曲で、健さんが吹きやすい、つまりよく耳になじんだ曲ということで、自ら提案したのではないか。短時間で習得するにはそうした愛唱歌がいちばんいいのだから。

まあ、そんな勝手な想像で「故郷の空」を選曲してみました。
少年時代の健さんが、どんな状況でどんな顔してこの「故郷の空」をうたっていたのか、想像してみると、なんとなく嬉しくなってくる。

実は、冒頭で書いた脳内カラオケで唯一歌い切れた曲がこの「故郷の空」でした。


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toty

お久しぶりです。取り上げられている抒情歌、脳内カラオケで
殆ど歌えます! などと、自慢している場合ではなく、

高倉健の幼い頃の歌、お母さんが先生をなさっていたとの報に
私もどんな歌と親しんでいたのかなどと、考えていました。

故郷の空ですか。今月はこの歌を何回も歌う機会があったもので
なんとなく、話題が通じているようで、心揺り動かされました。
by toty (2014-11-27 18:07) 

MOMO

こちらこそごぶさたしてます。

そうですか、全部うたえますか。やはり歌う機会が多くてらっしゃるからでしょうね。さすがですね。

「故郷の空」はもはや日本の原風景をうたっていると思いますが、
「赤とんぼ」のように「日本の人の心の歌」などといわれないのは外国生まれだからなのでしょうか。
好きな抒情歌のなかでとびきり好きな歌です。

by MOMO (2014-11-28 00:18) 

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